「崩れをめぐるツアー」は、特定非営利活動法人エコ・シビルエンジニアリング研究会―市民環境村塾の佐々木慶三理事が、以前から企画・提案していたものです。「 市民環境村塾の『文学の中の環境を考える会』が提案する環境教育企画―第1弾」と題された企画書は、2003年8月に書かれたものですが、その中には、
「いま都市の人たちは地方には美しい自然が溢れていると考えているような感じがする。そうではなく、『破壊と創造、美と醜、富と貧、危険と安全、快と不快、あい反するものが同居しているのが自然ではないか』と想いが及ぶことは決して無駄にはならないだろう。」
という鋭い指摘があります。
地球温暖化が進む中、しかし3.11以降、私たちの自然に対する対応は、二酸化酸素の削減により、地球の当初の姿を守ろうとする一方で、地震・津波や地すべり・土石流・洪水など、危険なもの、人間の生存とはあい反するものでもある、という認識を余儀なくされています。
美しい自然、守るべき自然という牧歌的な自然を楽しむだけでなく、自然の持つ厳しさや破壊力、そして根底にある不条理性をも、目をそらさずに知ることが、本当の意味でのガイア思想にたどり着く道ではないでしょうか。
私たちは、「崩れをめぐる旅」をここに企画提案し、さらに実施していきます。
最近、「世界遺産」に続くものとして、「世界ジオパーク」が注目されている。ジオパークは地球活動の遺産とそれに根ざしている人間の文化や歴史を保護、そして活用するという目的を持った活動。ジオツアーはこの中のひとつの活動として位置づけられる。「遊び」から見た登山とジオツアーについて、感じていることを書いてみた。
認定されたジオパークは、日本ジオパークネットワーク(JGN)、世界ジオパークネットワーク(GGN)に登録される。2010年11月現在の日本国内の世界ジオパークは4箇所(島原半島 洞爺湖有珠山 糸魚川 山陰海岸)、日本ジオパークは10箇所(恐竜渓谷ふくい勝山 隠岐 アポイ岳 南アルプス(中央構造線) 天草御所浦 阿蘇 室戸 霧島 伊豆大島 白滝)である。現在、日本ジオパークを目指して準備している地域は数十箇所あるそうである。
ジオパークと世界遺産(自然)との違いは、世界遺産が自然や文化遺産など、いわば「モノ」の保護を目的とするのに対し、ジオパークは地域の持続可能な発展など、その活用も目的とする。いわば「モノとヒトとで構成される相互システム」がジオパークである。
現在のジオツアーは博物館や地質遺産めぐりのために、バスや車を使って広範囲に移動するか、いくつかのジオポイントを数時間で廻れるようなコンパクトなコースを設定して、ジオサイトと呼び、これを数回に分けて歩くかのどちらかになる。遠方からの参加者は、一部を見るか、乗り物で一巡するかのどちらかとなる。遠い参加者ほど後者の方法を選択することになる。
一方、登山は歩行を原則とすることから活動範囲は限られ、一度で得られる知識量では不利であるが、汗を流して頂上を極めた時の感激は大きい。次の行動に向かわせる「持続性」では有利である。
例えば、糸魚川ジオパークでは、長野県大網地区から、近くを糸静線が通る大網峠越えで白池を経由して新潟県根知谷地区へ下山するコースを加えてみたらどうであろうか? 山上から眺める日本海に続く景色は雄大である。新潟県側にある地すべりによってできた白池はかつての塩の道の峠越えのための宿があった場所で、文政年間、大規模な雪崩で多くの人命を失った地である。塩の道は冬季間も途切れることなく歩かれた。先祖の人たちが歩いた同じコースを辿り、受難に想いを馳せることで、印象は強くなる。ジオパーク活動が休業状態になる積雪期の白池越えは、まさに江戸時代のボッカ達の世界そのものになる。
2008年6月ドイツ、オスナブリュック、第3回ユネスコ国際ジオパーク会議で「地質災害に関して社会と知識を共有するためにジオパークが役に立つ」という趣旨の1文が盛り込まれたが、この趣旨にも合致する。
素人もプロも楽しく面白くは絶対必要。従来からの美味しい食べものの魅力は、糖尿病予備軍が多くなった今では、さほどなくなった。楽しいことも、茶の間でテレビを見て、笑っていさえすればいいということもなくなった。
ジオツアーでは地域の小中学生を対象にした勉強会(見学会)が持たれていることも多い。地質とそれに依拠した生態、あるいは歴史、文化、芸術、教育などの説明は多面的多層的発想を養うに効果があるだろう。しかし、普通の成人参加者の中に、そのような小中学生の勉強会や説明に準じるようなツアーに興味を持つものはそう多くはない。だとすると、今のようなジオツアーに参加して深い充足感や満足感を持つ人は、特に意識や目的を持つ人を除くと、そう多くはないと思われる。
楽しいことや美味しいことの意味は、人それぞれに多様になった。「太平になれば人は刺激を求める」は古今東西変わらない。最近、「山ガール」なるものが出てきて、それに釣られて「山ボーイ」がちらほらと見えるようになったそうだ。山を廻る状況に変化が起きている。「山は中高年」の図式が壊れてきた。アドベンチャーの要素がある旅は必ず受ける。
そして「素人に対しては難しいことは避ける」は禁句。「難しいことを分かり易く説明すればいい」だけのこと。その上で単に岩石の名前や露頭を教えるのではなく、「何故、そこにその岩石(露頭)があるか」を説明し、考えてもらう。日本の中古生代の出来事を知れば、次に、「恐竜渓谷ふくい勝山」で、何故、島国日本に恐竜が棲んだのか?その疑問が生まれれば、さらに「山陰海岸ジオパーク」や「隠岐ジオパーク」を訪問してみたい気持ちが湧き上がるのではないか。今、各地のジオパークはそれぞれ個別の行動計画を有しているようだが、各地のジオパークを廻ることで、古生代から始まり第四紀の活火山と原日本人の誕生で終わる日本列島の地質構造発達史を統一的に把握できるように、各地のジオパークをネットワーク化する試みが大切と考える。このネットワークは日本ジオパークネットワーク(JGN)のネットワークとは役割を異にすることから、最終的にはジオパークに限ることはない。ジオパーク認定を目指している地域、ジオパークとは関わりないが、興味深い地質現象が見られる地域など、幅広い地域や団体を含めても良いのではないだろうか?
職業柄、渓流の奥深く足を踏み入れることが多かったが、このような砂防の現場は、一般人にとっては、非日常の世界と言って良い。例えば、足尾銅山を見学した後の松木谷を遡るトレッキングは自然の営力の厳しさと、そのような場所での自然破壊が回復不能な爪痕を残すことをマザマザと印象付けるジオポイントである。
富士山の大沢崩れ、富士川流域では七面山の大ガレ、安倍川上流の大谷崩れなど東京近郊でも多くの大規模崩壊地があり、大規模な砂防工事が行われている。これらの大規模崩壊地は多くの研究成果があり、また「崩れ」など女流作家による随筆もある。参加者が「紀行文を書いたり、写真を撮ったり」することによって参加者自らが主催者となれる。日本百名山や花の百名山にちなんで「日本10大崩壊地ツアー」を企画しても良いだろう。土石流の発生場を知り、防災工事が効率的に行われているのか?地域の安全を守るための必要な公共事業として、都市の納税者の視点で見てもらうことの意義もあろう。治水の歴史や人々の生活、文化とリンクすることによって立派なジオツアーとなる。これらのトレッキングは場所や時期によっては危険を伴う恐れがあるが、源頭に達した時の充足感は深い。山岳ツアーに熟練したガイドが同行することで、「山ガール」や「中高年者」に限らず、普段は砂防など無縁の都市住民達に安全なジオツアーとして提供が可能であると考える。
特定非営利活動法人エコ・シビルエンジニアリング研究会−市民環境村塾では以下のようなツアーの実施可能性を考えている。多くの専門家たちや賛同者・組織・機関の協力・支援の下に実現できればと考えている。
―東京からの近さを重視して選定―
(第1回目のツアー予定地、これで今後の継続性を検討する)
(1) 募集ビラ(A4・1ページ)
都市住民が「崩れ」から山地防災を考え、自らの感想を形にする。
富士山は日本の象徴、自然の恵みと災害は表裏一体。
「案内して教えるのではなく」、共に考える視点を大切にする。
人員(20〜25名)
(2) 案内書の作成と構成(約20ページ程度)
文学から見た富士山:
富士山の地質学的な位置:
南部フォッサマグナ、伊豆半島地塊の衝突地点 玄武岩質火山(成層火山、コニーデ型)
富士山の活動履歴:(精進湖、西湖への溶岩、宝永の爆発など)
火山災害の形態:
宝永の爆発による神奈川県内の土石流被害、農業被害など。今後は東名高速や
新幹線などの交通網や東京を含む日本の経済活動にも影響がでる可能性など。
大沢崩れの形成:
ハザードマップなど資料の添付:
自らの問題として捉える視点の醸成など、課題の提起:
(3)大沢崩れの見学ルートの決定:(見学地の選定:大沢崩れの遠望地、砂防施設(大沢扇状地・沈砂地、砂防えん堤、白糸の滝など)
ツアー終了後、参加者のコメント・写真・俳句・短歌・詩・散文などをまとめて、「それぞれの崩れ」として配布する。(他のツアーも共通)
(4)日程: 1日(日帰り)
(5)その他: 富士砂防事務所の事前訪問と計画の了承(立ち入り許可など)
ツアーの安全対策(保険、現地の引率の方法など)、
バスなど交通手段の手配
(1) 募集ビラ(A4・1ページ)
都市住民が「崩れ」から山地防災を考える。
利根川は東京の洪水災害と深い関係があった。その洪水の原因には山地の土砂流出が関係している。その関係を考える。
自然の恵みと災害は表裏一体、
人員(20〜25名)
(2) 案内書の構成(約20ページ)
東京の洪水災害:(1910年、1947年利根川の破堤)
利根川、江戸川の舟運の衰退:(川に大量の土砂が流れ込み航路の維持が困難になった
天明の噴火が影響)
天明の浅間山噴火の資料:(内閣府・防災会議など)
浅間山ハザードマップ:
江戸川のハザードマップ:
(徳川家康の利根川東遷事業がなかったら? 既往の洪水は東京東部地域へどれだけの被害を与えていたか?巨大プロジェクトのリスクとメリットの検証。河川研究者の支援や連携ができればこんな問題も解けるかも、)
(3) 見学地の選定:吾妻川上流(万座・白根火山砂防)酸性河川の砂防 など
(下流の八ツ場地区狭窄部では蒲原土石流の流量調節能力が大きかった。仮にダムの場合、蒲原土石流規模のものが流れ込むケースでは、段波による堤体からの越流は起きないのか?起きなければ下流への洪水被害を最小限に抑えることができるし、越流してダム堤体が破損すれば被害を増大させる可能性がある(メリットとデメリットの考え方)。:ダム技術者の支援・連携があればこんな素朴な疑問も解けるかも)
浅間火山(流路工)
片品川上流(砂防堰堤)
榛名・赤城火山砂防
烏川・神流川(砂防堰堤)
利根川上流(湯檜曽川など)
渡良瀬川上流(足尾銅山・松木谷荒廃地)など
*参照 【崩れをめぐる旅 趣意書】
第1回 崩れをめぐる旅は、7名の参加で無事終了しました。
日時 平成23年10月29日(土)〜30日(日)
・滝坂地すべりの見学会(「国土交通省北陸地方整備局 阿賀野川河川事務所への見学願い」より)
実施月日: 平成23年10月29日(土曜日)
見学時間: 午後1時から午後3時まで
見学の目的: 阿賀野川に押し出す地すべり地形とそのメカニズムおよび防止対策について学ぶ
見学コースの予定: (車)→あずま屋(掲示板等で概要説明)→(車)→松坂地区の集水井戸、モアイ像→(車:沼田抑止杭工事現場の駐車場に駐車)→抑止杭工事現場(工事概要説明)→(徒歩)→袖の沢のトンネル入り口→(駐車場へ徒歩でもどり、車で地外へ)
注意事項:
(1)車の運転、見学時のマナーに注意し、地元住民に迷惑をかけないよう心がける。
(2)現場にある地すべり対策用の機器には必要以上に近づかず、また不用意に触れないようにする。
(3)見学時に転倒事故や蜂や獣害が起きないよう、服装や履き物などに注意し、安全な見学行動ができるよう、事前に参加者に周知徹底する。
以下参加者からのメールです
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皆様
鳥追観音・地すべり地銚子の口・熊野神社・熱塩温泉・示現寺・磐梯山噴火記念館・
裏磐梯スキー場・銅沼・磐梯山3Dワールド・桧原湖・喜多方
2日間天候にも恵まれ、印象に残る所へご案内頂き有難う御座いました。
SWより
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御同行頂きました皆様・奥様
有難う御座いました、皆様の温かいご協力と、ご指導により
無事最後まで歩くことが出来ました。
晴天に恵まれ黄金の山の磐梯山も望むことが出来ました。
何時もの様に楽しい夕食
有難う御座いました。
SSより
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皆さまへ
無事楽しく過ごすことができました。直津さんには現地ガイドでフル活動で頑張っていただきました。事務所と折衝して、滝坂地すべりのガイドブックと立体地図を準備していただいてありがとうございました。磐梯山の銅沼へのとっさの変更も大事なポイントになりました。
SSさんには鳥追い観音の3匹の猿の説明で、尼僧さんの口に泡を溜ながらの熱弁を引き出していただいたのを始め、至る所で雰囲気を盛り上げていただいて感謝感謝です。
SKより
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●佐々木様
滝坂地すべりの見学ツアーを企画いただきありがとうございます。
防災のまさに現場とかつての火山災害地に、多くの名所を組み合わせた見学の企画と
地質や防災だけでなく文学的な作品まで網羅された資料は
大変すばらしく、さすが佐々木さんだと感心させられました。
本番に向けての良い下見になったと思います。
こういった下見だけでも、私たちは十分楽しめて問題有りません。
●NTさんが働かれている現場を見られたのも良かったです。
災害から国土や住民を守る重大な仕事ですね。
現地案内ありがとうございました。この現場もこれから冬になり、
ずいぶん様変わりするでしょうが、気をつけて勤務ください。
●SS様には、いつものように大変ごちそうになり、また
ツアー自体や皆の気持ちを大変明るくして頂き感謝します。
SSさんがいるといないでは
こういった旅行の盛り上がり方が全く違ってきます。
●SW様ご夫妻が、登山の経験や知識が大変豊富なのには
驚かされました。お二人で多くの山を本当によく歩かれていますね。
参加ありがとうございました。
次回も大変楽しみです。
柳田より
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